もくじ
1. 「24時間営業は当たり前」という呪縛
「レッカー業は24時間営業が当たり前でしょ?」
業界に入って15年、この言葉を何度聞いたことでしょうか。でも、本当にそうなのか。深夜2時に事務所で仮眠を取りながら、携帯電話を握りしめて待機する日々。月の人件費は深夜帯だけで60万円近く。それなのに、深夜の出動は月に5〜6回程度。
「この深夜営業、本当に必要なのか?」
先月、ある中堅レッカー会社の社長が、勇気を出してこの問いに向き合いました。正直、私もここまで変わるとは思っていませんでした。
「本当に辞めて大丈夫かな…」と社長が何度も言っていたのを覚えています。
24時間営業を辞めて、夜間は外注・提携に切り替えただけで、営業利益が前年比で35%増加したんです。
2. 深夜営業の「見えないコスト」
まず、深夜営業にどれだけのコストがかかっているか、正確に把握していますか?
コンビニ業界の事例ですが、深夜営業の実態が参考になります。夜勤人件費を計算すると、時給1,200円の8時間で9,600円、2人体制で19,200円、30日で57万6,000円になります。
引用元:しんぶん赤旗「コンビニオーナー密着24時」
レッカー業も同様です。深夜帯(22時〜翌6時)の人件費は、深夜割増賃金として通常の1.25倍。時給換算で1,500円とすると:
- 1日あたり:1,500円×8時間×2人=24,000円
- 月間:24,000円×30日=72万円
- 年間:864万円
この金額に対して、深夜の出動回数は月5〜6回。1回あたりの売上が3万円だとすると、月間売上は15〜18万円。人件費72万円に対して、売上18万円。完全な赤字です。
3. 飲食業界が示した「脱24時間営業」の潮流
実は、24時間営業を見直す動きは、すでに他業界では始まっています。
すかいらーくは2017年、約1,000店舗のうち750店舗について、深夜2時閉店、朝7時開店に変更しました。理由は「従業員のワークライフバランス推進」。深夜の客数減少傾向を受け、深夜勤務の従業員を別の時間帯に割り振ることでサービス向上を図り、客数は増加に転じたそうです。
引用元:Infoseekニュース「転換期にある?企業の『24時間営業』」
ロイヤルホストも2017年1月までに24時間営業を全廃。理由は「従業員の勤務状況と環境の改善のため」でした。
引用元:同上
つまり、24時間営業は「客数が減少しているのに、人件費は上昇する」という二重苦に直面していたんです。レッカー業界も同じ構造です。
4. レッカー会社A社の決断:夜間外注への切り替え
では、実際にレッカー会社が24時間営業を辞めた事例を見てみましょう。
A社のプロフィール
- レッカー車両:8台保有
- 従業員:15名
- エリア:首都圏郊外
- 年商:約1.2億円
従来の体制(24時間営業)
- 日中(8時〜22時):6台稼働
- 深夜(22時〜翌8時):2台稼働、隊員4名が交代制
- 深夜の月間出動:平均6回
- 深夜帯の人件費:月72万円
- 深夜帯の売上:月18万円
- 深夜帯の赤字:月54万円
新体制(夜間外注・提携)
- 日中(8時〜22時):8台すべて稼働
- 深夜(22時〜翌8時):近隣のレッカー会社B社と提携
- 深夜の依頼が入ったら、B社に紹介料20%で外注
- 月間紹介料:18万円×20%=3.6万円
収支の変化
- 従来:月54万円の赤字
- 新体制:月3.6万円の支出
- 差額:月50.4万円の改善
- 年間:604.8万円の改善
さらに、深夜シフトから解放された隊員4名を日中シフトに回すことで、日中の稼働率が向上。結果、年商は1.2億円から1.35億円に増加し、営業利益は前年比35%増を達成しました。
5. 外注・提携の3つのパターン
「でも、うちのエリアには提携できる会社がない」という声が聞こえてきそうです。実は、外注・提携には3つのパターンがあります。
パターン1:近隣レッカー会社との相互提携
最もシンプルなパターン。近隣のレッカー会社と「お互いの深夜依頼を回し合う」提携を結びます。
メリット:
- 初期費用ゼロ
- 地域の信頼関係で成立
- 緊急時の相互サポート体制にもなる
デメリット:
- 提携先が見つからない場合もある
- 品質管理が難しい
パターン2:大手ロードサービスとの業務委託契約
JAFや大手保険会社のロードサービスと、「深夜帯の一次対応」を委託契約します。
メリット:
- 全国ネットワークで安定
- 顧客への説明がしやすい
- ブランド信頼性が高い
デメリット:
- 委託料が高め(売上の30〜40%)
- 自社のブランド力が薄まる
パターン3:スポット外注
深夜の依頼が入った時だけ、一人親方や小規模事業者にスポット発注します。
メリット:
- 完全な変動費化
- 依頼がなければコストゼロ
デメリット:
- 緊急時の対応が不安定
- 品質のバラつき
6. 24時間営業を辞めることで生まれる「意外な効果」
A社の社長は、こう語ります。「24時間営業を辞めて、一番良かったのは隊員のモチベーションが上がったこと」
効果1:離職率の低下
深夜シフトがなくなったことで、「家族と過ごす時間が増えた」「体調が良くなった」と隊員から喜びの声。結果、離職率が前年の25%から5%に激減しました。
効果2:採用力の向上
「深夜勤務なし」と求人票に書けるようになり、応募者が2倍に増加。特に20代の若手からの応募が増えました。
効果3:日中の稼働率向上
深夜シフトから解放された隊員が日中に回ることで、繁忙時の対応力が向上。「お待たせする時間が減った」と顧客満足度も上昇しました。
効果4:経営者の精神的余裕
「深夜に電話が鳴るかもしれない」というプレッシャーから解放。経営者自身の睡眠の質が向上し、日中の意思決定の質も上がりました。
7. 24時間営業を辞めるための5ステップ
では、どうすれば24時間営業を辞められるのか。A社の事例をもとに、5つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状分析(1ヶ月)
まず、深夜帯の実態を数字で把握します。
- 深夜の出動回数
- 深夜の売上
- 深夜の人件費
- 深夜の利益率
この数字を見れば、深夜営業が本当に必要かどうか分かります。
ステップ2:外注先の選定(2週間)
近隣のレッカー会社をリストアップし、提携の打診をします。断られても諦めず、3〜5社に声をかけましょう。
ステップ3:既存顧客への説明(1ヶ月)
保険会社やJAFなど、主要な取引先に事前説明をします。「深夜は提携先が対応しますが、品質は保証します」と明確に伝えましょう。
ステップ4:試験運用(3ヶ月)
いきなり全廃するのではなく、まず「週末だけ」「平日だけ」など、部分的に始めます。問題がなければ、徐々に拡大していきます。
ステップ5:完全移行と効果測定(6ヶ月)
完全移行後、半年間の数字を検証します。売上、利益、隊員の満足度、顧客の満足度。すべてが改善していれば、成功です。
8. 「でも、お客様に迷惑がかかるのでは?」という不安
24時間営業を辞めることへの最大の不安は、「顧客を失うのでは」ということでしょう。
でも、A社の事例では、顧客満足度は逆に上がりました。なぜか。
理由1:日中の対応力が向上 深夜シフトがなくなった分、日中の人員が充実。到着までの時間が短縮され、「前より早く来てくれる」と好評。
理由2:隊員の疲労が減少 深夜勤務がないため、隊員の疲労が蓄積せず、対応の質が向上。「以前より丁寧になった」という声も。
理由3:提携先の品質管理 提携先には明確な品質基準を設定。月1回のミーティングでフィードバックを共有し、サービスレベルを維持。
実際、A社は24時間営業を辞めた後、顧客の解約はゼロ。逆に、「隊員の対応が良くなった」と新規顧客が増えました。
9. まとめ:24時間営業は「コスト」ではなく「投資判断」
- 深夜営業の人件費は月72万円、年間864万円
- 深夜の出動が月5〜6回なら、完全な赤字
- すかいらーく、ロイヤルホストも24時間営業を廃止
- 外注・提携に切り替えれば、年間600万円以上の改善も
- 24時間営業を辞めると、離職率低下、採用力向上、日中の稼働率向上
- 顧客満足度も逆に上がる可能性
24時間営業は、「当たり前」ではありません。それは「投資判断」です。
深夜に月50万円以上の赤字を垂れ流しながら、「うちは24時間営業だから」と続けるのか。それとも、勇気を出して外注・提携に切り替え、年間600万円の利益改善と隊員の働きやすさを手に入れるのか。
選択は、あなた次第です。
もし「24時間営業、本当に必要なのか?」と少しでも思ったなら、まず1ヶ月、深夜帯の数字を記録してみてください。その数字が、答えを教えてくれるはずです。