「自動運転が完璧になれば、事故も違反もなくなり、レッカー屋の仕事はなくなるんじゃないか?」

業界の集まりや若手スタッフとの会話の中で、こんな不安を耳にすることが増えました。

確かに、テスラやウェイモといった企業のニュースを見ていると、私たちの仕事が時代遅れのものに思えてしまうかもしれません。

しかし、2035年。

今から約10年後の未来、果たしてロードサービスは本当に「過去の遺物」になっているのでしょうか?

現場の最前線に立つ経営者として、少し先の未来を覗いてみましょう。

1. 2035年、道路から「事故」は消えるのか?

結論から言えば、「衝突事故」は激減しますが、「救援」のニーズは形を変えて確実に生き残ります。

経済産業省の資料によると、政府は2025年を目途に高速道路でのレベル4(特定条件下での完全自動運転)の実現を目指しており、2035年にはその普及がさらに加速していると予測されています。

引用元:経済産業省「自動運転の実現に向けた取組」

交通事故の約9割はヒューマンエラー、つまり人間の見落としや判断ミスが原因です。

AIが運転を代わることで、交差点での出合い頭の衝突や追突事故は、私たちが驚くほどのスピードで減っていくでしょう。

しかし、ここで忘れてはいけないことがあります。

「機械は壊れる」という真理です。

2. 「物理的なトラブル」はAIには解決できない

想像してみてください。2035年の冬、記録的な豪雪。

自動運転車が雪溜まりにスタックし、高感度なセンサーが雪で覆われてシステムエラーを起こし、身動きが取れなくなる。

あるいは、道路に落ちていた鋭利な破片を踏んでタイヤがバーストする。

そんな時、クラウド上のAIがスコップを持って助けに来てくれるでしょうか?

あるいは、AIがジャッキアップしてスペアタイヤに交換してくれるでしょうか?

答えは「NO」です。

車がどれだけ賢くなっても、物理的な「移動の自由」を支えるのは、最終的には私たちレッカーマンの「手」なのです。

JAFの最新の救援依頼データを見ても、依然として「タイヤのパンク」や「バッテリー上がり」は救援依頼の上位を占めています。

引用元:JAF 2023年度 ロードサービス救援依頼内容

車が電気自動車(EV)に変われば電欠への対応が必要になり、自動運転になればセンサーの故障による「立ち往生」が増える。

故障の質は変わりますが、現場に誰かが行かなければならない事実は変わりません。

3. 私たちの仕事は「レッカー」から「トータルサポート」へ

2035年、私たちの呼び名は「レッカー屋」ではなくなっているかもしれません。

例えば、「自動運転フリート・メンテナンス・スペシャリスト」

無人の配送ロボットや自動運転タクシーが故障した際、現場に急行して安全にシステムをシャットダウンし、高電圧バッテリーを適切に処理しながら搬送する。

そこには、これまで培ってきた「吊り上げ」「固縛」の職人技に加え、高度なITリテラシーが求められるでしょう。

仕事が「なくなる」のではなく、仕事の「中身」がより高度で、より専門的なものへとシフトしていく。

これは、私たちにとってチャンスでもあります。

4. 感情の「ラストワンマイル」を守る

自動運転時代、車は単なる「移動のツール」になります。

しかし、その中には必ず「人間」がいます。

事故や故障で立ち往生したとき、不安に震えるお客様に「大丈夫ですよ、すぐにお送りしますから。

「安心してください」と声をかけ、ホッと一息ついていただく。

この「感情のケア」だけは、どれだけ技術が進歩してもAIやロボットには絶対に代替できません。

私たちが運んでいるのは、鉄の塊だけではありません。

お客様の「困った」という気持ちを解決し、「安心」という価値を届けているのです。

これこそが、私たちの仕事の誇りであり、未来へ続く道です。

5. 終わりに:時代の波を乗りこなす

2035年に向けて、私たちが今やるべきことは、未来を恐れることではありません。

「車を運ぶ技術」を究めつつ、新しいエネルギー(水素や全固体電池)への知識を深め、最新のデジタルツールを味方につけることです。

時代の変化は、時に冷酷に見えるかもしれません。

しかし、その波を乗りこなすサーファーのように、変化を楽しみ、自らをアップデートし続けること。

そうすれば、2035年も、私たちは道路のヒーローであり続けられるはずです。

「いつの時代も、道の上で誰かが困っている。だから、俺たちが行くんだ」

その志がある限り、私たちの出番がなくなることはありません。