もくじ
1. 「バッテリーを破損させました」という悪夢の電話
深夜、テスラ Model 3のパンク修理で現場に向かいました。
タイヤを交換するため、いつも通りジャッキを車体の下に差し込み、持ち上げました。
作業を終えて車を降ろした瞬間、車両から「ピーッ!」という警告音が鳴り響きました。
ディスプレイには「バッテリー異常」の文字。
背筋が凍りました。
翌日、テスラのサービスセンターから電話がありました。
「バッテリーパックの外装が変形しています。ジャッキアップポイントを間違えたようですね。保証対象外で、修理費用は80万円です」
レッカー業界で15年、最も後悔しているのが「EVの特殊性を理解せずにジャッキアップした失敗」です。
テスラをはじめとするEVは、従来のガソリン車とは全く異なる構造を持っています。
2. テスラが「ジャッキアップ厳禁」と言われる理由
「テスラはジャッキアップ厳禁」
これ、半分正解で半分間違いです。
正確には「指定された場所以外でのジャッキアップは厳禁」なのです。
理由1:バッテリーパックが車体の下全体に広がっている
テスラをはじめとするEVは、車体の床面全体に巨大なバッテリーパックが配置されています。
従来のガソリン車のように、車体の下にジャッキを差し込む「余白」がほとんどありません。
テスラでは指定のジャッキアップポイント以外でジャッキアップし、車両が損傷した場合、保証対象外を謳っていますので、注意が必要です。
引用元:モデル3のとりせつ「テスラ モデル3 タイヤ交換をマスターせよ!」
理由2:バッテリーパックの外装は意外と脆い
バッテリーパックは、アルミやプラスチックで覆われています。
これらは、ジャッキの圧力に耐えられるほど頑丈ではありません。
誤った場所にジャッキをかけると、簡単に凹んだり、ひび割れたりします。
理由3:セルフレベリング機能の誤作動
Teslaは、車を水平に保つ為の「セルフレベリング」が常に作動しており、ジャッキアップするとサイレン(警告)が鳴ってしまいます。
従い、セルフレベリングモードをoffにする為に、ジャッキアップ前に「ジャッキモード」にする必要があります。
ジャッキモードにしないままジャッキアップすると、車両システムが異常を検知し、エラーコードが記録されます。
最悪の場合、車両が動かなくなります。
3. テスラの正しいジャッキアップポイント
では、どこにジャッキをかければいいのか。
テスラには明確に指定された「ジャッキアップポイント」があります。
ジャッキアップポイントの場所
Model Yの場合、リフトのアームパッドを図に示す指定されたボディリフトポイントの下側に当ててください。
リフトアームパッドをバッテリーの下側やサイド レールの下に配置しないでください。
具体的には、各タイヤの近くに4箇所、車体の側面に丸い穴が開いています。
そこが正規のジャッキアップポイントです。
専用ジャッキパッドの必要性
問題は、一般的なジャッキでは、このピンポイントのジャッキアップポイントに正確に当てることができないことです。
そこで必要になるのが「専用ジャッキパッド」です。
ジャッキパッドとは、ジャッキとテスラのジャッキアップポイントを繋ぐアダプターのようなものです。
これを使わないと、ジャッキがズレて、バッテリーパックに当たってしまいます。
テスラのタイヤ交換などにジャッキアップする際には専用のジャッキパッドを仕様し、バッテリー付近を変形させない、バッテリーを損傷しないためです。
4. レッカー現場での対応3ステップ
では、レッカー業者として、テスラのパンクや故障に遭遇したとき、どう対応すればいいのか。
3つのステップをご紹介します。
ステップ1:ジャッキモードの起動
ジャッキアップ前に、必ず車両を「ジャッキモード」にします。
操作は簡単です。
車内のタッチスクリーンを操作して「車高」から「ジャッキモード」とタッチするだけです。
すると、画面に「ジャッキモード」と表示されます。
ジャッキアップモードの操作はそこまで難しくなく、簡単な操作で切り替えることができます。
引用元:Seibii(同上)
ステップ2:専用ジャッキパッドの装着
次に、ジャッキアップポイントに専用ジャッキパッドを装着します。
ジャッキパッドは、六角レンチで簡単に取り付けられます。
レッカー業者として、テスラ専用のジャッキパッドを常備しておくことが推奨されます。
価格は4個セットで5,000円から10,000円程度です。
ステップ3:慎重にジャッキアップ
ジャッキパッドを装着したら、慎重にジャッキアップします。
ジャッキがズレないよう、常に確認しながら作業します。
モデル3 ロングレンジは車重が約2tありますので、最低でも1.5tのものを持ち上げられる能力のあるジャッキを購入すると良いでしょう。
引用元:モデル3のとりせつ(同上)
5. 破損トラブルの実例と修理費用
実際に発生した破損トラブルの事例と、その修理費用をご紹介します。
事例1:バッテリーパック外装の変形
誤ったジャッキアップポイントでジャッキアップし、バッテリーパックの外装が凹んだケース。
修理費用は80万円から100万円。
バッテリーパック全体の交換が必要になる場合もあります。
事例2:サイドレールの損傷
ジャッキがズレてサイドレールに当たり、フレームが歪んだケース。
修理費用は30万円から50万円。
フレーム修正には特殊な設備が必要です。
事例3:センサーの破損
ジャッキアップ時にセンサーケーブルを切断してしまったケース。
修理費用は10万円から20万円。
センサーの種類によって費用が変わります。
6. 多くの整備工場がテスラを断る理由
実は、テスラのタイヤ交換を断る整備工場が多いのをご存知ですか。
テスラは殆どのお店がタイヤ交換断ってくるみたいです。
ジャッキアップする時にアタッチメントをジャッキポイントに装着するのですが、そのようなものを使ってあげるのは無理だと断られたみたいです。
理由は3つあります。
- 専用工具がない
- 破損リスクが高い
- 保険でカバーできない
つまり、テスラ対応の整備工場は、それだけで差別化になるということです。
レッカー業者も同様です。
テスラに対応できるか否かで、依頼の数が変わります。
7. 他のEVも同様の注意が必要
テスラだけでなく、他のEVも同様の注意が必要です。
日産リーフ、三菱i-MiEV、ホンダe、マツダMX-30 EV。
これらすべてが、車体の下にバッテリーパックを搭載しています。
ジャッキアップポイントは車種ごとに異なるため、必ず取扱説明書を確認してください。
特に注意が必要なのが、輸入EVです。ポルシェ・タイカン、アウディe-tron、BMW iXなど。
これらは、メーカー純正の専用工具が推奨されることもあります。
ここで、以前ご紹介した「高級車(スーパーカー)の搬送で、運送保険の『上限』を超えてしまった時の対処法」も参考になります。
高額なEVの破損は、保険の上限を超える可能性があるため、事前の確認と対策が不可欠です。
8. EV時代のレッカー業者に必要な装備
EV時代のレッカー業者に必要な装備をリストアップします。
必須装備1:テスラ専用ジャッキパッド
4個セットで5,000円から10,000円。
これは絶対に常備すべきです。
必須装備2:容量2トン以上のジャッキ
EVは車重が重いため、1.5トン以上のジャッキが必要です。
できれば2トン以上を推奨します。
必須装備3:各メーカーのジャッキアップポイント資料
テスラ、日産、三菱など、主要EVメーカーのジャッキアップポイントをまとめた資料を作成し、車内に常備します。
推奨装備:絶縁手袋
高電圧車両を扱うため、絶縁手袋は必須です。
以前の記事「高電圧車両の絶縁手袋、いつ買い替える?安全管理の『うっかり』が命取りになる理由」でも詳しく解説しましたが、定期的な交換が重要です。
9. まとめ:EVは「知識」で扱う時代
テスラをはじめとするEVは、「経験」だけでは対応できません。
「知識」が必要な時代です。
重要なポイントは5つです:
- 指定されたジャッキアップポイント以外は絶対に使わない
- ジャッキモードを必ず起動する
- 専用ジャッキパッドを常備する
- 誤ったジャッキアップはバッテリー破損で80万円以上の損害
- 他のEVも同様の注意が必要
バッテリーパックの修理費用は80万円。
でも、それ以上に痛いのは、テスラオーナーからの信頼を失うことです。
一度破損させてしまえば、二度とその依頼者からの連絡はありません。
あなたの会社では、テスラ専用のジャッキパッドを常備していますか?
もしまだなら、今すぐ購入してください。
次の依頼が、テスラかもしれません。
その時、この記事を思い出してください。
正しい知識と正しい工具が、80万円の損害を防ぎます。