もくじ
1. 「グリス切れで救助失敗」という悪夢
深夜の高速道路、事故車両を牽引しようとウインチを作動させた瞬間、「ギィィッ」という異音とともにウインチが停止しました。
グリス切れによる焼き付きです。
その場で応急処置を試みましたが時すでに遅し。
結局、別のレッカー車を手配する羽目になり、依頼者からは「なんでメンテナンスしてないんだ!」と激怒されました。
レッカー業界で15年、最も恥ずかしいのが「道具のメンテナンス不足による現場での失敗」です。
グリスアップは地味な作業ですが、これを怠ると命取りになります。
関連記事:「ウインチのワイヤーが切れる瞬間。現場の『ヒヤリハット』から学ぶリスク回避術」でもウインチのメンテナンスについて触れていますが、今回はより具体的なグリスアップポイントを解説します。
2. なぜグリスアップが必要なのか
グリスアップとは、金属部品同士が擦れ合う部分に使用するグリスを交換し、潤滑状態を適切に維持するメンテナンスのことです。
グリスアップを行うことで、その部品の摩耗による焼き付きを防ぐことができます。
レッカー架装部は、ウインチ、ブーム、ドーリーなど、金属同士が激しく擦れ合う部分が多く、グリス切れは即座に故障につながります。
3. レッカー架装部の重要グリスアップポイント5箇所
では、具体的にどこをグリスアップすればいいのか。
現場で差がつく5つのポイントをご紹介します。
ポイント1:ウインチドラムの軸受け部
ウインチドラムを支える軸受け部は、最も負荷がかかる場所の一つです。
ここのグリス切れは、ドラムの回転不良やベアリングの焼き付きを引き起こします。
グリスアップの目安は、月1回または100時間使用ごと。
ニップルからグリスガンで注入し、古いグリスが押し出されるまで続けます。
押し出された古いグリスは、必ずウエスで拭き取ってください。
ポイント2:ブームの支点部
レッカーのブームを上下させる支点部も、高負荷がかかります。
特に重量車両を吊り上げる際は、支点に車両重量の何倍もの力がかかるため、グリス切れは致命的です。
グリスアップ時には、ブームを水平位置にして行います。
傾いた状態でグリスを注入すると、均等に行き渡りません。
ポイント3:油圧シリンダーのロッド部
油圧シリンダーのロッド部は、伸縮を繰り返すため、グリスが飛散しやすい箇所です。
放置すると、ロッドにサビや傷がつき、シール部からのオイル漏れにつながります。
ここは特殊なグリスが必要です。
シリコングリスなど、ゴムシールを侵さないグリスを選んでください。
月1回、薄くグリスを塗布し、余分なグリスはウエスで拭き取ります。
ポイント4:ドーリーの回転部
ドーリーのホイール回転部は、意外と見落とされがちなポイントです。
ここのグリス切れは、ドーリーの転がり抵抗を増加させ、牽引時の負荷を大きくします。
グリスアップの目安は、月1回または50回使用ごと。
ドーリーを裏返して、各ホイールの軸受け部にグリスを注入します。
ポイント5:安全フックの可動部
安全フックは、車両を固定する重要な部品です。
可動部のグリス切れは、フックの開閉不良を引き起こし、最悪の場合、牽引中に車両が外れる危険があります。
毎回の使用前に、フックの開閉がスムーズか確認し、月1回はグリスを塗布してください。
ここは手塗りで十分です。
4. グリスアップの最適時期は「夏」
グリスアップに最適な時期があるのをご存知ですか。
これからの夏時期は温度も高くなりグリスの粘度が低くなるため、固着してしまった部分のグリスを無理やり押し出してメンテナンスするには最適な時期です。
晴天の日中の走行後、グリスが十分に温まった状態で行ってみましょう。
固着がひどくなければ、意外にすんなりと入るかもしれません。
逆に、冬場はグリスが硬くなるため、注入に時間がかかります。
可能であれば、グリスガンを温めてから使用すると作業がスムーズです。
5. グリスの種類と使い分け
グリスには様々な種類があり、使い分けが重要です。
種類1:万能グリス
ホイール等のベアリング部に最適。回転部軸受けのほか潤滑を必要とする箇所に使用できます。
レッカー架装部では、ウインチドラムの軸受けやドーリーの回転部に使用します。
種類2:モリブデングリス
耐摩耗性、耐久性に優れ、荷重にも強いためミッション等の軸受けなどに最適。ブームの支点部など、高荷重がかかる箇所に使用します。
種類3:シリコングリス
耐熱性、耐薬品性に優れ、ゴム、プラスチックの部分にも使用可能。
油圧シリンダーのロッド部や、ゴムシールが使われている箇所に使用します。
引用元:PLOT「寒い冬はメンテナンス ~グリスアップ・注油編~」
それぞれ最適な使用箇所が決まっていますので、異なる種類のグリスを混ぜないでください。
性能低下をひき起こして故障の原因を作ってしまうこともあります。
6. グリスアップの3つの鉄則
グリスアップには、守るべき3つの鉄則があります。
鉄則1:作業前の清掃
古いグリスの上から新しいグリスを塗り重ねても潤滑性の向上は大きく望めないし、グリスは砂利やホコリを吸着するので、それが研磨剤となって摩耗を促進させることもあります。
必ず、古いグリスをウエスで拭き取ってから、新しいグリスを注入してください。
鉄則2:適量を守る
グリスの充填しすぎは逆効果です。過剰なグリスは飛散し、周囲を汚すだけでなく、ホコリを呼び込む原因になります。
目安は、古いグリスが押し出されて新しいグリスが見えたら適量です。
鉄則3:定期的な実施
グリスアップで最も重要なのは、「定期的に実施すること」です。
月1回、または100時間使用ごと、というルールを決めて守ることが、架装部を長持ちさせる秘訣です。
7. グリスアップを怠るとどうなるか
グリスアップを怠った場合の実例をご紹介します。
事例1:ウインチドラムの焼き付き
あるレッカー会社では、6ヶ月間グリスアップを怠った結果、ウインチドラムの軸受けが焼き付きました。
修理費用は35万円。
しかも、修理期間中はそのレッカー車が使えず、機会損失も発生しました。
事例2:ブーム支点の摩耗
別の会社では、ブーム支点のグリス切れに気づかず使い続けた結果、支点部が摩耗して遊びが発生。
車両を吊り上げる際にブームが不安定になり、作業の安全性が著しく低下しました。
修理費用は50万円以上。
グリスアップにかかる費用は、月に数千円程度。
これを怠ることで、数十万円の修理費用と、現場での信用失墜という大きな代償を払うことになります。
8. まとめ:月1回、30分の投資
レッカー架装部のグリスアップは、月1回、30分程度の作業です。
でも、この30分を怠ることで、現場で恥をかき、数十万円の修理費用が発生し、最悪の場合は人命に関わる事故につながります。
重要なグリスアップポイントは5箇所です:
- ウインチドラムの軸受け部
- ブームの支点部
- 油圧シリンダーのロッド部
- ドーリーの回転部
- 安全フックの可動部
夏場にまとめてグリスアップを行い、その後は月1回のペースを維持する。
グリスの種類を使い分け、作業前の清掃を怠らない。
適量を守り、過剰な注入は避ける。
あなたの会社では、グリスアップの記録をつけていますか?最後にグリスアップしたのは、いつですか?
もしすぐに答えられないなら、今日から記録を始めてください。
月1回、30分の投資が、あなたの会社と隊員の命を守ります。