もくじ
1. 「3,000万円の車、保険は1,000万円まで」という現実
深夜、フェラーリF8の事故対応で現場に向かいました。
オーナーは冷静に「レッカーをお願いします」と。
私は確認しました。
「車両価格は」「約3,500万円です」
その瞬間、背筋が凍りました。
うちの運送保険の上限は1,000万円。
もし搬送中に何かあったら、2,500万円は自腹。
いや、会社が潰れます。
レッカー業界で15年、最も恐れているのがこの瞬間です。
スーパーカーや高級輸入車の搬送で、保険の上限を超えてしまう事態。
これは、決して他人事ではありません。
2. スーパーカーは車両保険に入れない
まず理解すべきは、スーパーカーのオーナー自身が車両保険に入っていない可能性が高いということです。
車両保険金額が1,000万円を超えるような高額な車も、車両保険への加入を断られることがあります。
高額車両の場合、リスクが大きすぎると保険会社が判断して加入を断るケースがあるのです。
さらに、車両本体の時価額がおおむね1,000万円を超えると、車両保険については保険会社による加入審査のようなものが実施されます。
契約者の車庫の保管状況、住居周辺の治安状況、浸水の可能性などが総合的に判断されます。
つまり、3,000万円のフェラーリが車両保険に入っていない、または一部しか付保されていないケースは珍しくないのです。
3. レッカー会社の運送保険の限界
レッカー会社が加入している運送保険にも、当然上限があります。
一般的な中小レッカー会社の運送保険は、車両1台あたり1,000万円から1,500万円程度が上限です。大手でも3,000万円程度。
これは、保険料とのバランスを考えた現実的なラインです。
でも、スーパーカーの価格はこうです。
- フェラーリF8:約3,500万円
- ランボルギーニ・ウラカン:約3,000万円
- ポルシェ911ターボS:約2,800万円
- マクラーレン720S:約3,800万円
すべて、一般的な運送保険の上限を超えています。
4. 搬送中の事故、誰が責任を負うのか
ここで問題です。
運送保険の上限1,000万円の会社が、3,500万円のフェラーリを搬送中に、追突事故で全損にしてしまった場合、どうなるのか。
保険からの支払い:1,000万円
不足分:2,500万円
この2,500万円は、レッカー会社が負担します。
つまり、会社が潰れるレベルの賠償責任が発生するのです。
5. 対処法1:搬送前の書面確認
最も重要なのは、搬送前に必ず書面で確認することです。
具体的には、以下の内容を明記した「高額車両搬送同意書」を作成し、オーナーに署名をもらいます。
高額車両搬送同意書
- 車両価格が運送保険の上限を超えることを、依頼者は理解し同意します
- 当社の運送保険上限額は○○万円です
- 搬送中の事故により車両が損傷した場合、保険上限額を超える部分については当社は責任を負いません
- 依頼者は、車両保険への加入状況を確認し、自己の保険でカバーすることを理解します
この書面がないと、後で「保険上限額の説明を受けていない」と訴えられる可能性があります。
6. 対処法2:オーナーの車両保険を確認
次に、オーナー自身の車両保険の加入状況を確認します。
具体的には、こう聞きます。
「お車の車両保険には加入されていますか?加入されている場合、搬送中の事故も補償対象になる可能性があります。保険会社に確認していただけますか?」
オーナーが車両保険に加入していれば、搬送中の事故も「車両保険の対象」になるケースがあります。これなら、レッカー会社の負担は最小限に抑えられます。
7. 対処法3:専門の高額車両搬送業者に依頼
3つ目の選択肢は、搬送を断り、専門業者を紹介することです。
スーパーカー専門の運送業者は、5,000万円や1億円までカバーする特別な保険に加入しています。
搬送料金は通常の3倍から5倍ですが、リスクを考えれば妥当です。
オーナーに対しては、こう説明します。
「申し訳ございませんが、お車の価格が当社の運送保険上限を大幅に超えております。万が一の際に十分な補償ができない可能性がございます。スーパーカー専門の搬送業者をご紹介しますので、そちらにご依頼いただくことをお勧めします」
8. 対処法4:保険の追加特約
4つ目は、事前に保険会社と相談し、「高額車両特約」を追加することです。
通常の運送保険に、高額車両用の特約を追加すると、車両1台あたり5,000万円や1億円までカバーできます。
ただし、保険料は年間で数十万円から100万円以上に跳ね上がります。
この特約は、スーパーカーの搬送依頼が年に数回以上ある会社には有効です。
逆に、年に1回あるかないかなら、その都度専門業者に外注する方がコスト的に合理的です。
9. 実際の搬送時の注意点
高額車両を搬送する際は、通常以上の注意が必要です。
注意点1:必ず2名以上で作業
高額車両の搬送は、必ず2名以上で行います。1人が運転、もう1人が後方確認と記録撮影。
万が一の際、証拠が残ります。
注意点2:搬送前後の写真撮影
搬送前に、車両の全景と損傷部分を複数の角度から撮影します。搬送後も同様に撮影し、「搬送中に新たな損傷が発生していないこと」を証明します。
注意点3:最短ルートではなく最安全ルート
高額車両の搬送では、時間よりも安全を優先します。
狭い道、急カーブ、悪路は避け、多少遠回りでも安全なルートを選びます。
注意点4:速度を控えめに
法定速度の範囲内で、さらに控えめの速度で走行します。
急ブレーキ、急ハンドルは厳禁です。
10. まとめ:リスクを回避する4つの選択肢
スーパーカーの搬送依頼を受けた時、選択肢は4つあります。
- 書面で免責事項を明確にして搬送する
- オーナーの車両保険でカバーできることを確認して搬送する
- 専門の高額車両搬送業者に外注する
- 保険の追加特約を付けて対応する
どの選択肢を取るかは、会社の方針、保険の内容、搬送頻度によります。
でも、一番やってはいけないのは、「何も確認せずに搬送してしまうこと」です。
3,000万円の賠償責任。
これは、中小レッカー会社にとって致命的です。
「まあ、大丈夫だろう」という楽観は、会社を潰します。
あなたの会社の運送保険、上限額はいくらですか?そして、高額車両搬送のマニュアルは整備されていますか?
もしまだなら、今すぐ確認してください。
次の依頼が、3,000万円のスーパーカーかもしれません。