「車は潰れてもいい。自分の体だけは守ってほしい」

プロフィール

代表取締役 上條 富洋

株式会社トルク(兵庫県丹波篠山市)

株式会社トルク 代表取締役。兵庫県丹波篠山市に本社を置き、兵庫・大阪・京都でレッカー・ロードサービスを展開、年間約1万件の出動に対応する。応募者のほとんどが未経験という会社で、横乗りから段階を踏む研修と、残業に線を引く働き方づくりを進めている。

この社長の答え、3行で

  1. 人が来ないのは、業界が知られていないから。この仕事を目指して来る人は10人に1人
  2. 新人に教える安全のルールは「まず止まれ。指差し確認」。車より、自分の体を守る
  3. 人間は忘れる動物。だから2026年10月から、横乗りを重ねる15段階の研修に変える

会社情報

会社名
株式会社トルク
所在地
兵庫県丹波篠山市上宿335
公式サイト
24torque.jp/

Chapter 1いま、この業界で起きていること

業界の担い手不足と高齢化について

インタビュアー:担い手不足や高齢化を、現場でどう感じていますか。原因はどこにあると思われますか。

人手不足は、どこの会社もそうですし、弊社でも深刻です。若手の人材育成に重きを置いていますが、人口が減っていることも根本にあります。ただ、私が考えるいちばんの原因は、この業界が知られていないことです。

子どもが大人になったら何になりたいか。「消防士になりたい」「トラックの運転手になりたい」はあっても、「レッカー隊員になりたい」と書いた文集は、まず見たことがありません。私が子どもの頃もそうでした。なりたい仕事として、そもそも知られていない。もちろん、定着する人は定着してくださいますし、頑張ってくださる方は本当に頑張ってくださっています。それでも、認知不足がいちばんの原因ではないかと思っています。

募集をかけたときの反応で言うと、「いろんなサイトを見て、何とか辿り着いた」という声がほとんどです。この仕事を目指してピンポイントで来る人は、私の肌感覚で10人に1人。経験者ではないけれど、整備の仕事をしていてレッカー車がよく入ってくるのが気になって調べてきた、という人が20人に1人か2人くらいです。車屋さんに勤めていても、「レッカー屋さん、ありがとう、お疲れさん」で終わるくらいの認知度。もっと知ってもらう必要があります。

路上作業の安全について

インタビュアー:路上作業で、いちばん危険を感じるのはどんな場面ですか。御社が徹底していることを教えてください。

高速道路でも一般道でも、周りのドライバーが注意して見てくれている、分かってくれている、という前提で作業は絶対にしないこと。逆に「見ていない」ということを大前提にする。ここに重きを置いています。

事故は、本当にちょっとした油断で起きます。たとえば「あ、道具をここに忘れた、取りに行こう」と、本能でパッと取りに行ったとき。その一瞬なんです。だから、時間がかかってもいいから、次の行動に移る前に一瞬立ち止まって、「これは安全なのか」と、一瞬だけでいいので考えてほしい。気を抜かないのは、その一瞬だけです。

新人に最初に教える安全のルールは、「まず止まれ。そして指差し確認」。本当にこれだけです。とりあえずそれだけはやってください、と。自分の身の安全を保つことを、研修中の新人にはいちばんにお願いしています。

早く終わらせたい気持ちと安全の折り合いをどうつけるか、とよく聞かれますが、折り合いも何もありません。高速道路なら本線から離れる、これを徹底する。身の危険をいちばんに排除します。申し訳ないけれど、お客様の車も自社の車も、潰れてくれていい。自分たちの体さえ守ってくれればいい。お客様の車をお預かりする身としては失礼な言い方になりますが、車を犠牲にしてでも、怪我ひとつなく帰ってきてほしい。それが私たちの思いです。

Chapter 2信頼と、仕事のほんとうのところ

業界の信頼をどう守るか

インタビュアー:一部の業者による高額請求などで、まじめにやっている会社まで含めて業界全体が疑われることがあります。この状況をどう受け止め、信頼をどう守っていきますか。

悲しい話ですが、現場に行ってそういった場面に出くわすこともありますし、そういうことをしている業者がいると耳に挟むこともあります。ただ、大多数の会社は、きっちりやってくださっています。本当にお客様の目線に立って、保険会社さんの代表として、JAFさんの代表として、皆さん精一杯やってくださっている。それは分かっているんです。それでも、一部の方のせいでそういう話を聞くことが正直あります。

業界団体として皆さんが頑張ってくださっていることも耳にしますし、実際に活動の報告も受けています。素晴らしい活動なので、一日でも早く、そういったことがなくなればと思っています。そして一般の方にも、私たちの安全の話と同じで、一歩立ち止まってよく考えてみていただければ、という思いです。

料金の伝え方については、決めていることがあります。私どもは基本的に提携している保険会社さんの案件を優先していて、一般のお客様からの依頼は基本的にお受けしていません。ただ、雪のときなど突発的な場合に、お客様から直接お電話をいただいてお受けすることはあります。そのときは、まずどういう状況なのかを詳しくお伺いします。たとえば溝に2輪落ちているなら、「ざっくりですが、3万円から5万円くらいだと思います」とお伝えし、ご了解いただけるなら向かいます。現地に着いてキャンセルの場合は「5,500円いただきます」と、そこまで含めてすべて料金をご案内し、承諾をいただいてから伺う形にしています。通話は、お客様のご了解のもとで録音させていただいています。

「きつい仕事」というイメージとどう向き合うか

インタビュアー:ロードサービスは「きつい仕事」というイメージを持たれがちです。実際はどうですか。そのイメージにどう向き合っていますか。

慣れたら、「きつい」というのを忘れるんですよね。記憶力のいい人は「過去にきつかった」と覚えているのでしょうが、私は記憶力が悪いので、あまり気にしないタイプです(笑)。

ただ、「なぜきついのか」を噛み砕いていくと、知らない作業が多かった、分からないのに一人で出された、というところに行き着きます。現場からしたら「それは教えたよ」と言うのですが、人間は忘れる動物なんです。忘れるようにできている。もう忘れていいんです、忘れて当然なんです。

これまで弊社では、入社して30日から45日ほど横乗りをしてもらってから、サービスカーデビュー、積載車デビュー、レッカーデビューと進めていました。これを会社で相談して見直し、2026年10月に入社する人から、段階方式のステップアップ研修に変えます。

まず横乗りは10日から15日に短縮して、その間に覚えるのはバッテリージャンプと、お客様への接客対応、マナー。そこまでです。それからサービスカーでデビューして、担当するのはバッテリー上がりの対応だけ。3ヶ月、または300件以上をこなした人が、次のスペアタイヤ交換へステップアップする。その都度その都度、横乗りをしてもらう。15段階ほどのレベルを設定して、その人の成長に合わせて進めていきます。

緊張がほぐれて、仕事にもお客様の対応にも慣れてきた段階なら、どんどん飲み込めていくと思うんです。「きつい」を取り払ったときに、何がどうきついのかを会社として考えてやっていく。時間はかかりますが、その分、絶対に身につきますし、人間力としてもアップすると思っています。

EV化など技術の変化と、これからの業界像

インタビュアー:EVや新しい技術で、この仕事はどう変わっていくと思いますか。どんな会社、どんな人が残っていくでしょうか。

どんどんEV化していっていますが、タイヤが付いている以上、自動車である以上、防ぎきれない事故もパンクもあります。ロードサービスの需要が減ることは絶対にない、と考えています。EVだろうが何だろうが、そこは変わりません。

EVは今のところ故障は少ないですが、この先どうなるかはあります。動かなくなったら電気なので、どうにもこうにも動かない。レッカー車で出動するか、積載車で行きたいか、と現場対応で少し迷うかな、という程度で、現場としては特に困ることはないと思っています。

技術が変わっても変わらない部分は、「人」です。対「人」の仕事なので、これをAIに託してできるかと言えば、まったくできません。お客様がどうしたいのか、ご希望を聞いて、「こういう手段があります」「こういう手段もあります」と提案する。まして私たちは地域でやらせていただいているので、たとえば「ここから先は夜10時になったらタクシーがいません」「こっちのほうならタクシーがあります」というような地域の特性がすごくあります。「お客様、ご自宅はどこですか」「どこへ行こうとしていたんですか」「何にお乗りですか」。そういう肌感覚と経験値を持っているので、対「人」がいちばん大事だと思っていますし、この仕事はなくなりません。

Chapter 3会社のつくり方と、これから

人が集まり、辞めない会社をどうつくるか

インタビュアー:人が集まる会社、そして辞めない会社を、どうつくっていますか。特に「辞めない」ために意識していることを教えてください。

辞めないためには、どんな業種でも共通していることですが、やはり会社の環境です。福利厚生、給料、休み、勤務体系、いろいろありますが、その環境がその人に合うようにする。弊社では環境づくりの一環として、就業規則である程度のルールを作っています。ただ、ルールが先走って、ルールが優勢になってその人を見られなくなってはいけない。だから必ず例外や特殊措置という形でご案内していますし、何かあったら相談してください、と伝えています。人間は生きている以上、一人ひとり環境が違います。十人十色と言われるくらいですから、そこに合わせて対応していくことを目指しています。

これまでに人が辞めた理由でいちばん多かったのは、過去の話ですが、残業です。終わりの見えない24時間365日。どこの会社もそうだと思いますが、終わりがない、エンドレスなんです。たとえば19時上がりなら18時半で受付を切る、というような提案が会社としてできればよかった、と思っています。今はその方向でやっています。19時までの仕事でも、そこから走って20時頃に「終われるな」と思ったところで20時の電話を受けたら、また21時、22時になる。超繁忙期に受けたりしたら日付が変わる。「じゃあ俺、いつ終われるん、いつ上がれるん」という齟齬が生まれます。だから、そこはきっちり線を引く。もう少し働きたいという人は、事前に上長に「もうちょっと働きたいんで」「残業代が欲しいんで」と伝えてもらい、法定の残業時間の範囲で働いてもらえればと思っています。

給与と評価制度については、いま作りかけです。担当の社労士と進めていて、2026年10月に最終の打ち合わせをして労働基準監督署に提出し、11月か12月に社内全員へ告知する予定です。基本的に今の給料のベースアップになりますので、すごくいいことだと思っています。

この業界は将来どうあるべきか

インタビュアー:10年後、この業界はどうあるべきだと思いますか。そのために何をすべきでしょうか。

日本は高齢化社会になっているので、これから車が増えることは少なくなってくると思います。ただ、減りきってなくなることもない、と予測しています。保険会社さんの見立てでも、向こう5年は契約者数はずっと横ばいで、10年後には少しずつ減っていくけれど、絶対数が減るわけではない。現にコロナから5年、その前の5年、10年は「ずっと上がらないだろう」と言われていたのに上がってきていますから、5年前、10年前のペースに戻るだけです。まだまだ仕事はあります。

業界としての10年後のビジョンは、周りの助け合いだと思っています。たとえば従業員が一人辞めて「ちょっと案件に出られない」となったとき、周りの業者さんにご負担をかける場合もあります。皆さんでネットワークを駆使して、仲良くやっていければと思っています。

これからこの仕事を選ぼうとしている人へ

10年後に入ってくる若者、いまのお子さんたちにも伝えたいのですが、この仕事はハマれば楽しいですし、いろんな車にも触れます。それより何より、人間性、人との接触、コミュニケーション。そういったことが、日々の人間としての成長にもつながると思っています。
ぜひ、ご応募お待ちしております。

株式会社トルク 代表取締役 上條 富洋 様