もくじ
1. 現場保存の失敗が、責任問題に発展した日
深夜の高速道路、事故車両を牽引しようとした瞬間、警察官から「ちょっと待って!まだ現場検証が終わってない!」と怒鳴られました。
私は既に車両にフックをかけていました。
警察官は続けました。
「ブレーキ痕の位置を確認する前に車を動かしたら、証拠が消えるんだよ!」
その時、初めて気づきました。
レッカー業者は「車を運ぶプロ」ですが、「現場を保存するプロ」でもあるべきだと。
レッカー業界で15年、最も後悔しているのが「現場保存」の重要性を理解していなかった若い頃です。
現場保存を怠れば、過失割合が正しく判断されず、依頼者が不利益を被ります。そして、その責任を問われるのは、レッカー業者かもしれません。
関連記事:「スマホ一つで事故現場の全景を撮る。
保険会社に『一発OK』をもらう写真の撮り方」でも事故現場の撮影について触れていますが、今回は現場保存と警察官との連携に焦点を当てます。
2. 現場保存とは何か
現場保存とは、事故現場の状況をできるかぎり現状のまま保持し、後から見返すことのできる客観的な証拠を数多く残しておくことです。
引用元:大分県弁護士会「交通事故に遭ったらA 〜現場保存と証拠化〜」
交通事故の損害賠償請求に関する交渉や裁判等では、事故当時の様子をできるかぎり忠実に再現する作業が必要になることがありますので、特に事故態様や過失割合等に争いがあるような場合、事故現場の様子はなるべく現状のまま保存するように心がけましょう。
3. なぜレッカー業者が現場保存を意識すべきなのか
「現場保存は警察の仕事でしょ?」そう思っていませんか。
実は、レッカー業者が現場に到着するのは、警察よりも早い場合が多いのです。令和3年中の110番通報に対するリスポンス・タイムの平均は8分24秒とされています。
引用元:agoora「警察による事故処理・実況見分で行われること」
でも、レッカー業者は依頼を受けてから5分以内に到着することもあります。
つまり、警察が到着する前に、レッカー業者が現場の第一発見者になるケースがあるのです。
この時、現場保存を意識しないで車両を動かしてしまうと、重要な証拠が消えます。
ブレーキ痕、破片の散乱状況、車両の停止位置。これらすべてが、過失割合を決める重要な証拠です。
4. 現場保存の5つの鉄則
では、具体的にどうすれば良いのか。現場保存の5つの鉄則をご紹介します。
鉄則1:車両を動かす前に写真を撮る
レッカー作業を開始する前に、必ず現場の状況を写真に収めてください。
スマートフォンで十分です。
撮影すべきポイントは以下の通りです:
車両の停止位置(複数の角度から) ブレーキ痕やタイヤの擦過痕 破片の散乱状況 道路標識や信号機 周辺の建物や目印
鉄則2:やむを得ず車両を動かす場合は記録する
道路交通法では、事故現場は警察官が急行するまでは現状のまま保存しておくことが望ましいですが、事故車両が通行の妨げになっている場合には、更なる二重事故が起こらないように安全な場所に移動させる必要があります。
引用元:法友全期会「運転中に交通事故を起こしてしまった場合、加害者はどうしたらいいですか?」
やむをえず警察官が来る前に、車両や積載物を移動させる場合には、事故現場の状況を写真や動画で撮影するなどして記録をとっておくことが有用です。
鉄則3:目撃者の情報を確保する
もし現場に目撃者がいたら、その人の住所や氏名、連絡先等を教えてもらってメモしておくとよいでしょう。
引用元:大分県弁護士会(同上)
目撃者は時間が経つと去ってしまいます。
警察が到着する前に、目撃者の連絡先を確保することが重要です。
鉄則4:現場にあるものに触れない
現場保存の大原則は、「現場にあるものすべてに手を触れてはいけない」「現場にあるものをむやみに動かしてはいけない」ということです。
破片、血痕、落下物。
これらすべてが証拠です。
レッカー作業に必要な場合を除き、触れないでください。
鉄則5:広めに保存範囲を確保する
現場保存の範囲は、犯罪、事故の発生した地点だけではなく、現場の状況に応じて、関係者の行動範囲と考えられるすべてが対象となります。
したがって警備員は、現場保存に当たる場合には、犯罪、事故の発生現場を中心として可能な限り広い範囲を保存する必要があります。
レッカー業者も、三角表示板や発煙筒で、現場周辺への立ち入りを制限する意識が必要です。
5. 警察官が到着したら、すべきこと
警察官が現場に到着したら、レッカー業者としてすべきことが3つあります。
すべきこと1:到着を報告する
まず、警察官に自分が「レッカー業者として依頼を受けて来た」ことを伝えます。
警察官は、関係者の身元を確認する必要があるため、運転免許証や会社の名刺を見せましょう。
すべきこと2:撮影した写真を共有する
警察官が到着する前に撮影した写真があれば、それを警察官に見せます。
「警察官が到着する前の状態です」と説明することで、実況見分の参考になります。
すべきこと3:牽引の許可を得る
警察官に対して、「実況見分が終わったら、車両を牽引して良いですか?」と確認します。
勝手に牽引を始めると、現場保存妨害と見なされる可能性があります。
実況見分は早ければ20分程度で終わりますが、大規模な事故やけが人が複数いる事故の場合は、全体で1〜2時間かかるケースもあります。
6. 実況見分に立ち会う場合の注意点
場合によっては、レッカー業者も実況見分に立ち会うことがあります。
この時の注意点を3つご紹介します。
注意点1:曖昧なことは断定しない
記憶のあいまいなことは断定しないということを心がけましょう。
はっきり覚えていないことは無理に回答せず、「わからない」または「思い出すまで待ってほしい」と伝えておきましょう。
注意点2:事実と異なる内容はその場で訂正
もし事実と異なる内容が実況見分調書に記載されていたときは、すぐにその場で内容を訂正してもらいましょう。
警察官に事実が正確に伝わっていても、文字に起こすと違った意味になってしまうケースもあります。
注意点3:感情的にならない
現場検証(実況見分)では、感情的にならずに冷静な気持ちで対応してください。自分と相手の主張が噛み合わずに言い争いになるケースもありますが、冷静さを欠くと正確な情報が警察に伝わりにくくなります。
7. 警察官との円滑なコミュニケーション術
警察官とスムーズに連携するための、3つのコミュニケーション術をご紹介します。
術1:敬語を使い、協力的な姿勢を示す
警察官も人間です。
横柄な態度を取ると、協力を得にくくなります。
「お疲れ様です。レッカー業者の〇〇と申します。
何かお手伝いできることがあればお申し付けください」という姿勢が大切です。
術2:専門用語を使わず、分かりやすく説明する
レッカー業界の専門用語は、警察官には通じません。
「ドーリーを使います」ではなく、「前輪を持ち上げる補助車輪を使います」と説明しましょう。
術3:待つべき時は黙って待つ
実況見分中は、警察官の指示があるまで待機します。
「早く終わらせてください」とせかすのは厳禁です。
現場保存と実況見分は、依頼者の権利を守るための重要な作業です。
8. まとめ:現場保存は依頼者の権利を守る
現場保存は、単なる警察への協力ではありません。
依頼者の権利を守るための重要な作業です。
過失割合が10%変われば、賠償額は数百万円変わることもあります。
その過失割合を決める重要な証拠が、現場に残されています。
レッカー業者として、現場保存の5つの鉄則を守ってください:
- 車両を動かす前に写真を撮る
- やむを得ず動かす場合は記録する
- 目撃者の情報を確保する
- 現場にあるものに触れない
- 広めに保存範囲を確保する
そして、警察官が到着したら、協力的な姿勢で連携する。
敬語を使い、分かりやすく説明し、待つべき時は黙って待つ。
これらを実践するだけで、あなたは「現場保存を理解しているプロのレッカー業者」として、警察官からも依頼者からも信頼されます。
次の出動では、車両にフックをかける前に、一度立ち止まって周囲を見渡してください。
そこに、依頼者の権利を守る重要な証拠が残されているかもしれません。