1. 「大丈夫だろう」が命取り。現場で見た、あの日のこと

深夜2時、首都高での作業中でした。

ベテランの田中さん(仮名)が、いつものように手慣れた様子でワイヤーを掛けていたんです。

20年のキャリアを持つ、誰もが信頼する職人でした。

でも、その瞬間は突然やってきました。

滑った車両が数センチ動いた、それだけ。

たったそれだけで、田中さんの指は潰れ、3ヶ月の入院を余儀なくされました。

家族4人を養う大黒柱。

住宅ローンも残っています。

「まさか自分が…」

これ、他人事じゃないんですよね。

2. レッカー業界特有の「危険」を、あなたは本当に理解していますか?

一般的なオフィスワークとは比べものにならない、私たちの仕事。

雨の日も、雪の日も、真夏の灼熱アスファルトの上でも、現場は待ってくれません。

高速道路上での作業、重量物の吊り上げ、不安定な路肩での車両固定。

ひとつ間違えば、命に関わる作業の連続です。

厚生労働省の統計によると、運輸・交通業界の労働災害発生率は全産業平均の約1.7倍。

令和六年 労働災害動向調査(厚生労働省)

特にロードサービス業では、交通事故に巻き込まれるリスク、重機による挟まれ事故、転落、腰痛などの職業病まで、多岐にわたる危険と隣り合わせなんです。

3. 「労災があるから安心」は大きな勘違い

「うちは労災保険に入ってるから大丈夫」

そう思っていませんか?

実は、労災だけでは足りないケースが山ほどあるんです。

労災保険は確かに治療費を補償してくれます。

でも、問題はそこじゃない。

休業中の生活費、家族の食費、子どもの学費、住宅ローン…これらは待ってくれません。

労災の休業補償給付は、給付基礎日額の60%(休業特別支給金を合わせても80%)

つまり、収入が2割減るんです。月収40万円なら、8万円のマイナス。

これ、けっこうキツくないですか?

しかも、給付開始まで数日かかります。

その間、無収入。

貯金を切り崩すしかありません。

4. 個人事業主・一人親方の方、もっと深刻です

従業員を雇っている会社なら、まだ労災がある。

でも、個人でレッカー業を営んでいる方、協力会社として動いている一人親方の皆さん。

労災保険、入ってますか?

実は一人親方は、自分で特別加入しない限り、労災の対象外なんです。

知ってました?

建設業の一人親方なら組合経由で加入できますが、ロードサービス業は「運送業」扱い。

加入できる団体も限られていて、保険料も業種によってバラバラ。

月額4,000円〜10,000円程度かかります。

「まあ、俺は大丈夫だろう」

その油断が、家族を路頭に迷わせるかもしれません。

5. 所得補償保険という「お守り」

ここで知っておいてほしいのが、所得補償保険(就業不能保険)です。

これ、簡単に言えば「働けなくなったときの給料を補填してくれる保険」

病気でもケガでも、仕事ができない期間、毎月決まった金額が支払われます。

例えば、月額15万円の補償に入っておけば、入院中も、リハビリ中も、毎月15万円が振り込まれる。

労災と併用できるので、収入減を最小限に抑えられるんです。

某大手保険会社の試算では、35歳男性が月額15万円の補償(支払い期間2年)に加入する場合、月々の保険料は約3,000円〜5,000円程度。

缶コーヒー1本我慢すれば、家族を守れる。

そう考えると、安いと思いませんか?

6. 業界団体の共済制度も要チェック

実は、ロードサービス業界にも独自の共済制度があることをご存知でしたか?

各地の協同組合や業界団体が提供している共済は、一般の保険よりも掛け金が安く、業界特有のリスクに対応していることも多いんです。

私の知り合いの経営者は、「従業員全員を団体共済に加入させている」と言っていました。

会社が掛け金の半分を負担して、従業員の安心を買う。

これも立派な福利厚生ですよね。

従業員の定着率も上がるし、「この会社は自分たちのことを考えてくれている」という信頼にもつながります。

7. 具体的に、何をどう備えればいいのか

ここまで読んで、「で、結局何すればいいの?」と思っている方、多いはず。

 

最低限、これだけはやってください

まず一人親方の方は、労災保険の特別加入。

これは絶対。

月5,000円前後で、最低限の安心が買えます。

次に、所得補償保険の検討。

家族構成や住宅ローンの有無で必要額は変わりますが、最低でも月10万円の補償は確保したいところ。

経営者の方は、従業員向けの団体保険や共済の導入を。

福利厚生の充実は、人材確保の武器になります。

今、ドライバー不足で困っている会社、多いでしょう?

8. ある経営者の決断

知り合いの中堅ロードサービス会社の社長、山田さん(仮名)の話です。

3年前、彼の会社で重大事故がありました。

従業員が作業中に後続車に追突され、重傷。

幸い命は助かりましたが、半年間働けませんでした。

労災だけでは生活が苦しく、その従業員は貯金を取り崩し、最終的に奥さんがパートに出ることに。

「会社に迷惑かけて申し訳ない」と、復帰後すぐに退職してしまったんです。

この経験が山田社長を変えました。

すぐに全従業員を対象とした団体所得補償保険に加入。

月々の保険料は会社負担。

年間で約40万円のコストアップでしたが、「従業員が安心して働ける環境を作るのが経営者の責任」と決断しました。

結果、離職率は劇的に下がり、求人にも「充実の福利厚生」と書けるようになった。

採用コストを考えたら、保険料なんて安いもんだ、と山田社長は笑っていました。

9. 「備え」は愛情です

大げさに聞こえるかもしれませんが、本当にそう思うんです。

あなたが倒れたとき、家族はどうしますか?

従業員が働けなくなったとき、その家族をどう支えますか?

レッカー業は誇り高い仕事です。

困っている人を助け、社会のインフラを支えている。

でも、自分自身や仲間を守る備えがなければ、その誇りも意味を持ちません。

明日は我が身。

今日、帰宅したら、保険証券を見直してみてください。

労災の特別加入を調べてみてください。

従業員との面談で、不安を聞いてみてください。

その一歩が、あなたと、あなたの大切な人たちの未来を守ります。

現場の安全は装備と技術だけじゃない。

万が一のときの経済的な備えも、プロの条件なんです。