もくじ
1. 「社会保険料が高すぎて会社が潰れる」
先月、ある中堅レッカー会社の社長から、深刻な相談を受けました。
「隊員を5人雇ってるんですが、社会保険料だけで月30万円以上。年間360万円です。このままじゃ会社が持たない。隊員を『一人親方』にして外注扱いにすれば、この負担がゼロになると聞いたんですが…」
気持ちは分かります。社会保険料は、企業にとって給与の約15〜16%の追加コストです。月給30万円の社員なら、会社負担分だけで月4.5万円。5人なら月22.5万円、年間270万円もの負担になります。
引用元:ジンジャー「社会保険料の会社負担割合は?」
でも、ちょっと待ってください。安易な「一人親方化」は、会社を潰す以上のリスクを抱えています。
2. 偽装一人親方とは何か
国土交通省は、偽装一人親方問題を「技能者の処遇低下のみならず、法定福利費等を適切に支払っていない企業ほど競争上優位となるなど、公正・健全な競争環境を阻害するのみならず、社会保険加入対策の根幹を揺るがす重要な問題」と認識しています。
引用元:Wikipedia「一人親方」
偽装一人親方とは、実質的に労働者と評価すべき人を、形式的に一人親方(個人事業主)として扱うことです。
レッカー業界でよくあるのが:
- 毎日同じ時間に出勤させている
- 会社の指示に従って業務をさせている
- 会社のレッカー車を使わせている
- 日当や月給で報酬を支払っている
これ、全部アウトです。形式は「請負契約」でも、実態は「雇用契約」。これが偽装一人親方です。
3. 偽装一人親方のリスク:懲役刑もあり得る
偽装一人親方と判断されると、どうなるのか。想像以上に厳しい罰則が待っています。
リスク1:脱税と判断される
国税庁は、「大工、左官、とび職等」の一人親方の受ける報酬が、事業所得に該当するか、給与所得に該当するか、独自の判断基準を設けて税務調査を実施しています。形式上は請負契約であっても実態は雇用契約と判断された場合は、税法上の給与所得となり、労働者と判断された一人親方は、雇用主から源泉徴収すべきであった税金分を徴収される可能性があります。
引用元:行政書士オフィスわかほ「適正と考えられる一人親方とは」
つまり、過去に遡って源泉徴収すべきだった税金を、会社が全額負担することになります。5年分遡れば、数百万円から数千万円の追徴課税もあり得ます。
リスク2:社会保険料の遡及徴収
偽装一人親方問題のもっとも大きな原因は、社会保険料の支払いです。従業員を一人雇用するのは、会社にとって大きな出費を意味します。そこで、社会保険料や雇用保険料などの支払いが必要ない請負契約の一人親方に見せかけてしまうことがあるようです。
引用元:一人親方の労災センター共済会「偽装一人親方とは」
一度偽装と判断されたら、過去2年分(悪質な場合は時効の5年分)の社会保険料を遡及徴収されます。しかも延滞金付きです。
リスク3:建設業許可の取り消し
偽装一人親方の状態とされた場合は、建設業法や労働関係法令に違反する可能性があります。請負契約に見せかけた実態労働契約は、建設業法第19条(不正の手段による許可取得など)に抵触する可能性があります。
引用元:アラインパートナーズ「偽装一人親方は違反?」
レッカー業で建設業許可を持っている会社は少ないかもしれませんが、今後の事業拡大を考えている場合、許可取得が不可能になることも。
リスク4:刑事罰
労働の対価として賃金が支払われている場合、事業主が所得税や住民税を特別徴収しなければいけません。偽装請負における一人親方化をおこなっている場合は納税していないため、法律に違反している可能性があります。この場合、企業側は滞納だけではなく脱税となる恐れがあり、懲役刑や罰金刑が科されます。
引用元:一人親方労災保険組合「建設業における偽装一人親方問題とは?」
4. 本物の一人親方と偽装の境界線
では、どうすれば「本物の一人親方」として認められるのか。国土交通省が明確な基準を示しています。
本物の一人親方の7つの条件
国土交通省の「クリーンな雇用・クリーンな請負の建設業界」によると:
- 仕事の進め方:一人親方は「自分の判断で行う」、社員は「会社の具体的な指示に従う」
- 報酬の受け取り方:一人親方は「工事を完成させたら受け取る」、社員は「給与として毎月受け取る」
- 働く時間・休日:一人親方は「自分の判断で決める」、社員は「会社の就業規則などで決まっている」
- 資機材:一人親方は「自分で用意したものを使用」、社員は「会社から支給されたものを使う」
- 工事の完成責任:一人親方は「親方の責任」、社員は「会社の責任」
- 労災保険:一人親方は「自己負担」、社員は「会社が負担」
- 社会保険:一人親方は「国民健康保険・国民年金に加入。保険料は全額自己負担」、社員は「協会けんぽ・厚生年金に加入。保険料は会社が半額負担」
引用元:建設 IT NAVI「偽装請負の一人親方を撲滅へ」
この7つの条件の大半を満たさない場合は、偽装一人親方の疑いがあります。
5. レッカー業界での正しい契約形態
では、レッカー業界で一人親方を活用する場合、どうすれば適法なのか。
パターン1:完全独立型(本物の一人親方)
契約内容:
- 「○○地域で発生した事故対応を、1件あたり3万円で依頼する」という完全成果報酬型
- 出動するかどうかは一人親方が自由に判断
- 使用する車両や工具は一人親方が自己負担
- 出動時間や作業方法も一人親方が決定
メリット:
- 社会保険料の負担なし
- 労働基準法の適用なし
- 繁忙期だけの依頼も可能
デメリット:
- 緊急時に対応してもらえない可能性
- 品質管理が難しい
- 顧客対応のトラブルリスク
パターン2:社員雇用型(正攻法)
契約内容:
- 労働契約を締結
- 社会保険に加入
- 労働基準法を遵守
メリット:
- 会社の指揮命令下で確実に業務遂行
- 品質管理が容易
- 顧客への信頼性が高い
デメリット:
- 社会保険料の負担(給与の約15〜16%)
- 解雇規制が厳格
- 労働時間管理の義務
パターン3:業務委託契約(グレーゾーン回避型)
契約内容:
- 「月間○件以上の対応」という業務委託契約
- ただし、出動の可否は一人親方が判断
- 報酬は成果に対して支払う(時間給ではない)
- 車両や工具は一人親方が所有
メリット:
- 社員雇用よりコストが低い
- ある程度の継続性が確保できる
デメリット:
- 契約書の作成が複雑
- 実態が雇用に近いと判断されるリスク
- 税務調査で指摘される可能性
6. 正しい契約書の作り方
一人親方との契約で最も重要なのが、契約書の内容です。
NG例:実質雇用契約
業務委託契約書
- 乙(一人親方)は、甲(会社)の指示に従い、レッカー業務を行う
- 勤務時間:9時〜18時
- 報酬:日当12,000円
- 甲の車両を使用すること
これは完全にアウトです。「指示に従い」「勤務時間」「日当」という言葉が、雇用契約そのものを示しています。
OK例:真の業務委託契約
業務委託契約書
- 甲は乙に対し、○○エリアで発生したレッカー業務を委託する
- 乙は自己の判断と責任において業務を遂行する
- 報酬:1件あたり30,000円(出動後、作業完了時に支払い)
- 乙は自己所有の車両及び工具を使用する
- 業務の依頼を受けるか否かは、乙が自由に判断できる
- 甲は乙に対し、具体的な作業方法を指示しない
このような契約書であれば、「本物の一人親方」として認められる可能性が高まります。
7. 国の取り締まり強化の現状
国土交通省では2020年以降、「建設業の一人親方問題に関する検討会」を複数回実施しています。そこでは、いわゆる「偽装一人親方問題」を大きく取り上げており、偽装一人親方の撲滅・是正に向けた「下請指導ガイドライン」の改訂作業などを行っています。
引用元:SBBIT「偽装一人親方問題とは何か」 https://www.sbbit.jp/article/st/138027
つまり、国は本気で取り締まりを強化しているんです。「バレなければ大丈夫」という時代は終わりました。
令和3年度に静岡県内の労働基準監督署が監督指導を行った922事業場のうち、333事業場で違法な時間外労働がありました。建設業の現場では「偽装一人親方」として発注者に酷使されている方がしばしば見られます。
引用元:ベリーベスト法律事務所「偽装一人親方とは?」
8. 社会保険料を合法的に削減する方法
「じゃあ、社会保険料の負担をどうすればいいんだ」という声が聞こえてきそうです。偽装ではなく、合法的にコストを抑える方法を3つご紹介します。
方法1:パート・アルバイトの活用
社会保険の適用要件を満たさない範囲(週20時間未満)でパート・アルバイトを雇用すれば、社会保険料の負担は発生しません。
方法2:業務の外部委託(本物の外注)
本当に独立した一人親方や、法人化した事業者に業務を委託する。これなら何の問題もありません。
方法3:生産性向上による人員削減
配車システムの導入、業務の効率化により、少ない人数で同じ売上を上げる。これが根本的な解決策です。
9. まとめ:目先の利益より、長期の信頼
- 社会保険料の会社負担は給与の約15〜16%
- 偽装一人親方は、脱税・社会保険料遡及・刑事罰のリスク
- 国土交通省が本気で取り締まり強化中
- 本物の一人親方は7つの条件を満たす必要がある
- 正しい契約書が命綱
- 合法的なコスト削減方法は他にもある
社会保険料の負担は確かに重い。でも、偽装一人親方で摘発されれば、会社は一瞬で潰れます。
目先の数十万円を惜しんで、数千万円の追徴課税と会社の信用を失うのか。それとも、正攻法で経営を続けるのか。
選択は、あなた次第です。
もし「社会保険料が本当にキツい」と感じているなら、税理士や社会保険労務士に相談してください。合法的なコスト削減策は、必ずあります。
違法な方法に手を出す前に、専門家の知恵を借りましょう。それが、あなたの会社と従業員を守る唯一の道です。