1. 深夜2時の出動写真が、会社の命運を左右する

レッカー業界で経営コンサルタントをしていると、本当に背筋が凍るような相談を受けることがあります。

 

つい先月も、ある中堅レッカー会社の社長から電話がありました。「うちの若い隊員がSNSに出動中の写真を投稿して、大変なことになってるんです」と。

 

見せてもらった投稿は、事故車両のナンバープレートが鮮明に映っており、背景には高級住宅街の風景。さらに「芸能人っぽい人の車だった」というコメントまで。投稿からわずか3時間で、会社の電話が鳴り止まなくなったそうです。

SNS時代の今、レッカー隊員の何気ない投稿が、会社の信用を一瞬で吹き飛ばす。これは決して他人事ではありません。

 

2. SNS炎上の現実:数字で見るリスクの大きさ

まず、企業を取り巻くSNS炎上の現状を見てみましょう。

株式会社コムニコの調査によると、2024年に観測されたSNS炎上事件の総数は168件。炎上期間に言及された関連キーワードの総数は9,842,139件で、平均炎上日数は22日。鎮火までに136日(4ヶ月以上)かかった事例もあります。

引用元:株式会社コムニコ「SNSリスク分析レポート 最新のSNS炎上を媒体別・性別・業界別・カテゴリ別に解説」 

さらに、最も炎上件数が多い媒体はX(Twitter)で125件(74.4%)。匿名性で気軽に投稿しやすく、拡散力もあることからSNS炎上の舞台となりやすいようです。

引用元:同上

そして最も衝撃的なのが、企業の対策実施率です。

株式会社エルテスの調査によると、広報・マーケティング担当者の約4割が炎上などのSNSトラブルの当事者・関係者・目撃者となった経験があるにもかかわらず、企業として実際にSNS関連のリスク対策を講じている企業はわずか35%にとどまっています。

引用元:株式会社エルテス「実態調査:組織体制や業績を脅かすSNS炎上、企業の対策率はわずか35%」 

つまり、企業の3社に2社が、炎上の危険性を理解しつつも実質的な対策を取れていないのです。

3. レッカー業界特有の「SNS地雷」

レッカー業は、他の業種以上にSNSリスクが高い業態です。なぜなら:

1. 個人情報の宝庫

事故車両のナンバー、車種、場所、時間。すべてが個人を特定できる情報です。「高級外車のレッカー移動中」という投稿1つで、依頼者のプライバシーが侵害されます。

 

2. 24時間体制の現場

深夜や早朝の出動が多く、疲労や気の緩みから、つい「今日も大変だった」と写真付きで投稿してしまう。これが炎上の入口です。

 

3. 若い隊員の雇用

20代の隊員はSNSネイティブ世代。「友達にしか見せてない」という感覚で投稿しますが、実際は全世界に公開されています。

 

4. 事故という緊迫した状況

事故現場は混乱しています。その中で撮影した写真や動画には、本来映ってはいけないものが映り込むリスクが高い。

 

実際、全国で従業員による不適切なSNS投稿、いわゆる「バイトテロ」が社会問題化しています。飲食店や小売店での事例が目立ちますが、レッカー業界でも同様のリスクがあるのです。

4. 炎上の破壊力:あるそば屋の悲劇

バイトテロの恐ろしさを理解するために、実際の事例を見てみましょう。

2013年、あるそば屋の店員が業務用食器洗浄機や冷蔵庫に入った様子をX(Twitter)に投稿しました。このそば屋はもともと店舗数を減らして経営していたところに事件が発生。不衛生であるといった旨の非難が殺到して営業停止に追い込まれ、そのまま営業が再開することなく破産手続きを開始せざるを得ませんでした。

会社側は当該アルバイトに1,000万円以上の損害賠償請求を行いましたが、最終的に200万円で和解となりました。

引用元:リリーフサイン「炎上リスク急増中!バイトテロの実例と企業へのダメージ」 

たった1枚の写真が、会社を倒産に追い込んだのです。

もう1つ、回転寿司チェーンの事例も見てみましょう。来店客が湯飲みや醤油ボトルの口を舐めたり、レーンの寿司に唾液をつけたりする様子を撮影した動画がSNSで拡散され、大きな炎上につながりました。店側の過失ではありませんが、親会社の株価が急落。結果、この炎上に合わせて同社の株価は130円も下落し、時価総額にして27億円の損失が生まれました。

引用元:同上

5. レッカー業で起こりうる炎上シナリオ

では、レッカー業界で具体的にどんな炎上が起こりうるのか。実際に相談を受けた事例(守秘義務があるため詳細は変更)を含めてご紹介します:

シナリオ1:「今日の現場」投稿

投稿内容:事故車両の写真に「今日も大変な現場だった」とコメント。

問題点:

  • 車両のナンバーが映り込んでいる
  • 場所が特定できる建物が背景に写っている
  • 事故の詳細がコメントから推測できる

結果:依頼者から「プライバシー侵害だ」とクレーム。保険会社からも契約見直しの警告。

シナリオ2:「やばい車両」投稿

投稿内容:高級車や珍しい車両の写真を「こんな車、初めて見た!」と投稿。

問題点:

  • 車種と場所から所有者が特定される可能性
  • 守秘義務違反
  • 会社の信頼性への疑問

結果:所有者から会社へ抗議。SNS上で「この会社は信用できない」と拡散。

シナリオ3:「迷惑駐車の車両」投稿

投稿内容:違法駐車のレッカー移動中に「こういう迷惑な奴がいるから困る」と投稿。

問題点:

  • 車両所有者への誹謗中傷
  • 業務上知り得た情報の公開
  • 中立性の欠如

結果:車両所有者から名誉毀損で訴えられる可能性。行政からの指導。

シナリオ4:「疲れた」投稿

投稿内容:「今日は12時間働いた。もう限界」と勤務時間を投稿。

問題点:

  • 労働基準法違反の疑い
  • 会社の労務管理への批判
  • 安全運転への懸念

結果:労働基準監督署への通報。「疲労した隊員が運転していて大丈夫か」という不安の拡散。

6. なぜ若い隊員は投稿してしまうのか

「そんなこと、常識で分かるだろう」と思うかもしれません。でも、実は若い世代はバイトテロという言葉すら知らないケースが多いんです。

情報リテラシー教育の専門家である高橋暁子氏によると、大学生などに「バイトテロ」という言葉を知っているか問いかけても、多くの学生は知らないそうです。「バイトテロ」という言葉は雇用側だけで流行っているワードで、雇用される側はそのワードを知らないことが多いのです。

引用元:Indeed「アルバイトスタッフのSNSには要注意!炎上リスクを回避するためにできること」 

さらに、若い世代はSNSが日常のありふれたものになっているため、危機感がとても希薄です。「SNSは不特定多数の知らない人々も閲覧できる場所なんだという意識がほとんどなく、深く考えずに自分の個人情報を晒してトラブルにつながることがある」と指摘されています。

引用元:同上

つまり、彼らは「悪いことをしている」という自覚がないまま投稿しているのです。

7. でも、SNSは「悪」ではない

ここまで読むと、「もう隊員にSNSを使わせるな」と思うかもしれません。でも、それは違います。

SNSは使い方次第で、会社の強力な武器になるんです。

SNSの「チャンス」面

  1. 会社のPRになる
  • 「深夜の事故対応、お疲れ様でした!」という励ましのメッセージと隊員の後ろ姿(顔は映さない)
  • 「安全運転講習を受けました」という教育体制のアピール
  • 「新しいレッカー車が導入されました」という設備投資の報告

これらは会社の信頼性を高める投稿です。

  1. 若い人材の採用に有利 若い世代は就職先をSNSで調べます。「働いている人の雰囲気が分かる」という理由で、SNSで情報発信している会社に好印象を持ちます。

3. 地域とのつながり 「地域の交通安全講習に参加しました」「地元のお祭りに協賛しました」など、地域密着型の投稿は会社のイメージアップにつながります。

8. 実践!安全投稿のガイドライン

では、どうすれば炎上を防ぎつつ、SNSのメリットを活用できるのか。具体的なガイドラインをご紹介します。

絶対NGルール

以下は絶対に投稿してはいけない内容です:

  1. 車両の特定につながる情報 
    • ナンバープレート
    • 車種と色の組み合わせ
    • 特徴的なカスタマイズ
  2. 場所の特定につながる情報 
    • 住所が分かる風景
    • 店舗名や施設名
    • 位置情報タグ
  3. 個人情報 
    • 依頼者の顔写真
    • 名前
    • 事故の詳細
  4. 業務上知り得た情報 
    • 事故の原因
    • 損傷の程度
    • 保険会社とのやりとり
  5. 会社の信用を損なう内容 
    • 顧客への批判
    • 労働環境への不満
    • 同僚への悪口

OKな投稿

逆に、これらは積極的に投稿してOKです:

  1. 教育・訓練の様子 
    • 「今日は安全運転講習を受けました」
    • 「新しい設備の使い方を学んでいます」
  2. 会社の取り組み 
    • 「地域の清掃活動に参加しました」
    • 「交通安全キャンペーンに協力しています」
  3. 一般的な安全啓発 
    • 「雨の日は視界が悪くなります。安全運転を心がけましょう」
    • 「年末年始は事故が増えます。皆さんお気をつけて」
  4. 会社の日常(個人情報なし) 
    • 「今日も安全第一で頑張ります」
    • 「新しいレッカー車が導入されました(車両のみの写真)」

グレーゾーン(要確認)

迷ったら必ず上司に確認してから投稿:

  1. 遠景の現場写真 
    • 車両や個人が特定できない距離感なら可能性あり
    • ただし念のため確認
  2. 一般的な業務内容 
    • 「今日は5件の出動がありました」→OK
    • 「今日は○○で事故対応しました」→NG 
  3. 隊員同士の写真 
    • 全員が了承していれば可能性あり
    • でも顔出しは慎重に 

9. 会社として取るべき対策

隊員任せにせず、会社としてシステムを作ることが重要です。

1. SNSガイドラインの作成と配布

日本マクドナルドのソーシャルメディア利用ルールが参考になります。具体例を示しつつ、分かりやすい言葉で説明がなされています。

例:

  • 「社会、倫理に反する投稿や発言は行ってはいけません」
  • NG例:「今日来たお客さん、超キモかった!」

引用元:トヨクモ防災タイムズ「SNSの投稿が倒産につながる。モラル無き投稿はさせない、『バイトテロ』対策」 

レッカー業界向けには、こんな感じでしょうか:

レッカー隊員のSNS利用ルール

  • NG:「今日は○○町で高級車をレッカーした」
  • OK:「今日も安全第一で業務完了」

2. 入社時の誓約書

株式会社エルテスの調査によると、バイトテロを行った従業員に対して損害賠償を請求することが可能です。過去の事例では、不適切な写真を投稿した学生に対し、総額200万円の損害賠償命令が出されています。

引用元:同上

誓約書には具体的な金額を明記することで、強い抑止効果が期待できます。

「〜した場合には、損害賠償を請求する可能性があります」よりも、「〜した場合には、最大200万円の損害賠償を請求します」という表現の方が効果的です。

引用元:同上

3. 定期的な研修

株式会社エルテスでは、最新の事例や同一業界の事例を交えるなどカスタマイズしたSNSリスク研修を提供しています。バイトテロ対策にフォーカスした研修も対応可能で、アルバイト社員だけに限らず管理職に向けた研修など、対象に合わせたカスタマイズも可能です。

引用元:株式会社エルテス「変わるバイトテロ。企業に求められる対策とアルバイトに伝えること」 

研修のポイントは:

  • 「どういった投稿・行為が危険なのか」
  • 「どのように拡散・炎上してしまうのか」
  • 「ネット炎上が自身にどのような影響を与えるのか」

を具体的に自分事化してもらうことです。

4. 公式アカウントの運用

隊員個人のアカウントを規制するだけでなく、会社の公式アカウントで積極的に情報発信するのも効果的です。

「こういう投稿ならOK」という見本を会社が示すことで、隊員も安心して投稿できます。

5. モニタリング体制

完全な監視は倫理的に問題がありますが、会社名や関連ワードを定期的に検索し、早期発見・早期対応できる体制を整えましょう。

炎上は発見が早ければ早いほど、被害を最小限に抑えられます。

10. もし炎上してしまったら

どんなに気をつけていても、炎上のリスクはゼロにはなりません。万が一炎上してしまったときの初動対応を決めておくことが重要です。

初動対応の5ステップ

  1. 事実確認(30分以内)
  • 投稿内容の確認
  • 投稿者の特定
  • 拡散状況の把握
  1. 投稿の削除(1時間以内)
  • すぐに削除指示
  • スクリーンショットを保存(証拠として)
  1. 謝罪の準備(2時間以内)
  • 社内で対応方針を決定
  • 必要なら弁護士に相談
  1. 公式発表(6時間以内)
  • 事実関係を簡潔に説明
  • 謝罪の言葉
  • 再発防止策
  1. フォローアップ(1週間)
  • 依頼者への個別対応
  • 保険会社への報告
  • 社内教育の実施

スピードが命です。炎上は時間とともに拡大するため、早期対応が被害を最小限に抑えます。

11. 数字と向き合う勇気

最後に、一番大切なことをお伝えします。

「うちの隊員に限って大丈夫」。この楽観的な考えが、一番危険です。

前述の通り、広報・マーケティング担当者の約4割が炎上などのSNSトラブルの当事者・関係者・目撃者となった経験があります。これは決して「遠い世界の話」ではありません。

でも、逆に言えば、きちんと対策を講じている企業は35%しかいない。つまり、今から対策を始めれば、他社より一歩先を行くことができるんです。

SNS対策は、コストではなく投資です。炎上1回で失う信用は、何年もかけて築いてきたものです。その信用を守るための投資だと考えてください。

12. まとめ:リスクをチャンスに変える

  • SNS炎上は年168件、平均炎上日数は22日と長期化
  • 企業の対策実施率はわずか35%と不十分
  • レッカー業は個人情報を扱うため、特にリスクが高い
  • でもSNSは使い方次第で強力なPRツールになる
  • 明確なガイドライン、教育、モニタリングが不可欠
  • 炎上時の初動対応マニュアルを事前に準備
  • 若い隊員は「知らない」から投稿してしまう→教育が鍵
  • 200万円の損害賠償事例もあることを共有


隊員のSNS投稿を「禁止」するのではなく、「正しく活用」する。それが、これからのレッカー会社に求められる姿勢です。

あなたの会社では、SNS対策のガイドラインを作成していますか?

もしまだなら、明日の朝一番で作成を始めてください。次の炎上が、あなたの会社かもしれないのですから。